「バベルの塔」で痛感したマクロとミクロを同時に見いだす大切さ

マクロとミクロの融合ーーとは、素晴らしいキャッチフレーズだ。「バベルの塔」展に合わせて開かれた講演会の演題である。

【大阪】記念講演会とキッズ・デーを開催します!<プロジェクトBABEL

マクロとミクロを別物とする誤謬

よく、マクロの視点はもちろんミクロの視点からも物事を見つめることが大切だといわれる。しかし、人はとかく白か黒か、右か左かといった二元論に陥りがちだ。かくいう私もマクロとミクロとは、まったく相反するもの、別個のものとして捉えていた。

「バベルの塔」の実物を初めて見て、マクロとミクロがまったく同じ時間と空間に存在することの立体的な手触りに驚いた。壮大な「バベルの塔」や周辺の村の様子、空模様など、マクロの視点を最大限生かして描ききっているそばで、「バベルの塔」のどこまでも細かな建物の描写、芥子粒ほどの人々というミクロの極致が一枚の絵に併存している。

本来、美術鑑賞に当たって平素の自省であったり人生哲学を深めたりといった小難しいことは邪道かもしれない。芸術の前にあって純粋に作品そのものを味わうことなく派生的な理屈を生み出して満足してしまうおそれがあるからだ。

頭の洗濯にふさわしい一枚

とはいえ、一つの偉大な芸術作品は一人の人生を大きく変えるに十分な力を持っている。

生きるにおいて、マクロとミクロの視点がどちらも大切なことは言うまでもない。けれど、万能の天才でないか凡人にとって、マクロに偏り過ぎてほら吹きになってしまったり、ミクロにこだわりすぎて粘着質の強い生活になってしまったり、なかなか生きるとは厄介である。

先日、子供の頃から理数系の分野が得意な幼なじみと再会した。数学どころから算数レベルから苦手な私は、小学生の頃から次の計算の理由がわからなかった。

1/2 ÷ 1/2 = 1

なぜ1になるのだろうか。分数の割り算は小学校4年生レベルで習う。もちろん後ろの1/2をひっくり返して掛ければ1になる、という計算方法は算数音痴の私でも知っている。けれど、なぜひっくり返すと答えが出るのか、いやそもそも数字を割るというのはどういう行為なのか。小さな頃からの疑問を思い出してきて、矢継ぎ早に友人に質問した。

このとき、友人は子供に教えるようにかみ砕いて丁寧に割り算の本質や簡単な割り算の方法の意味を教えてくれた。ただひっくり返して掛ければいい、という単純な説明ではなく、AがBになってCになり、だからDになるといったような、次々と最前の計算が後へ後へと影響していく流れがうまく飲み込めない。

もどかしくなったのか友人は「お前は、一つ一つのことは理解できているのに、次に移った途端に前のことを忘れている。目の前のことにこだわりすぎて、前後の流れを見るのが苦手なようだ」と指摘した。

大手の塾で働いている友人は、ときどき直接学生に指導することもあるらしい。答案用紙の解答方法なり生徒がどこでつまづいているのかによって、自ずと本人の性格や思考の癖などもわかってくるというのだ。

マクロに偏り過ぎていないか?ミクロに偏執してはいないか?

細部にこだわるというのはけっして悪いことではない。とくに日本において丁寧な仕事、一つ一つを積み上げるようなやりかたは好まれてきた。「バベルの塔」を描いたブリューゲルも建築設計の精密な図面を描けるようなミクロのプロだったらしい。

だが、ともしてこだわりは執着に変わり、周辺に広がる大切な流れを見失いやすい。自分自身が、ついついこだわりがきつくて大局を見るを苦手と感じているのと通ずる。

そのうえで、「バベルの塔」は見事にマクロの視点とミクロの視点が同時に存在するという、ブリューゲルの凄まじい才能に当てられそうになる。二つの映画を一つのスクリーンで同時に上映して、ぴたっと映像と内容、芸術性がマッチしている、といったようなイメージだろうか。

「バベルの塔」は近視眼的に暮らしている私たちの日常感覚を大いにかき回してくれるだろう。東京で見逃した人なら大阪まで、関西に住んでいて少しでも気になる人はぜひ足を運んでもらいたい。

鑑賞に当たってのポイントは、まず実物の「バベルの塔」を一度見て、その後東京芸術大学による300%拡大の複製画で実物では見えなかった部分をしっかりとチェックし、もう一度実物を見に並ぶようおすすめする。

また、鑑賞後はぜひ完成度の高い図録を購入したい。1Fのレストラン「中之島ミューズ」で提供されているバベル盛りなるオムライスを食べながら優雅に「バベルの塔」展を反芻してみるといいだろう。

美術展メモ

ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展

[公式サイト]

[会場]

東京会場:東京都美術館 2017年4月18日(火)〜7月2日(日)
大阪会場:国立国際美術館 2017年7月18日(火)〜10月15日(日)

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