道後温泉のまちに生まれた伊予猿として(2)天目茶碗に憧れて

reference:As time goes by!

夢は漱石、小説家

小学校4年生のときに松山市主催の坊ちゃん文学賞が創設された。
小説家を目指していて学校図書館に必ず並んでいる『なるにはシリーズ』の「小説家になるには」などを読んだり祖父のワープロで文章を書き始めていたので、文豪漱石への憧れは一塩のものがあった。

小説「坊ちゃん」で知られているように漱石も毎日のように道後温泉に通っていた。
いまでも三階霊の湯(たまのゆ)の個室のなかに漱石が好んで使ったという部屋が残されている。
床の間に漱石の頭部像が飾られて一幅の掛け軸は「則天去私」とでもなっていたのではなかったろうか。

小学5年生から卒業するまではよく道後温泉に通っていた。
もともと小学校に上がる頃から、道後村巡りというスタンプラリーを母と姉と三人で日曜日になると歩きや自転車で訪ねていた。
道後温泉本館を皮切りに旧道後村の主な社寺や名所旧跡などを巡っていく。
スタンプ帳にすべて押し終えて事務局に持ち込むと道後温泉本館または椿湯の入浴券がもらえた。

厭な子供は出で湯で遊ぶ

5年生頃には一人で回るようになり、そのうち漱石に憧れて本館の湯に浸かった。
道後温泉本館は設備やサービスによって料金別となっている。
大きく分けると神の湯と霊の湯で、さらにただ入浴するだけ、大座敷で浴衣を着て茶を飲む、最高クラスが個室利用である。
今から思えば厭な子供というほかないが、やがてすべての入浴区分を制覇した。
小学生まではこども料金半額だったのでお小遣いを貯めて利用しやすかったというのもあった。

霊の湯3階の個室は現在おとな1500円、こども750円だが、当時とあまり変わっていないように思う。
階段を上がって一番奥右手が坊ちゃんの間。
障子を開けると眼下に本館入り口が見渡せる。
タイミングがいいと真上の振鷺閣の太鼓が響いてきたり、料金に含まれる皇族専用浴室・又新殿(ゆうしんでん)の見学もできた。

霊の湯の浴室は薄暗くお湯も神の湯より白濁していてぬめりが強かった。
土日でも観光シーズンでなければ貸し切り状態のことも多く、坊ちゃんにかこつけてよく泳いでいた。

夢の天目茶碗

お風呂から出てくる頃合いを見計らっておばちゃんがお茶と坊ちゃん団子を持ってきてくれる。
子供の頃は坊っちゃん団子が大好きで、親によくせがんだりお小遣いで握り拳大のジャンボ坊っちゃん団子をよく食べていた。

パラパラと持ってきた小説を読んだり、原稿用紙に落書きをしたりしていると時間がやってくる。

道後温泉ではお茶が運ばれる際、赤い輪島塗りの天目台で運ばれる。
どうしてもこれが欲しくておばちゃんに尋ねてみたことがあったが、とても貴重なものでもう作られていないから譲れないと断られたのがほろ苦い思い出として残っている。