【詩】ニライカナイからの水音

観光地の新原(みぃーばる)ビーチから
東御周り(あがりうまーい)の聖地の一つ
沖縄で初めて稲作が始まったという
泉が湧く

さとうきび畑のなかに
間借りしたような小さな田圃が見える
清水が小川を作り出す
田を潤して
海風が青き稲を撫ぜる

しゃがんで
片手で清水を掬い
額にそっと当てる

いまここに生きている。

琉球の密林が透けてゆく。

体が、もはや浜辺の
砂になりたいと呟く

あるはずのない石段が
密林の奥へと手招きする
雨に濡れた自然石の階段で
滑るのが当たり前だと主張する

立ち止まれ、
可視的な水蒸気が命令する
ガジュマルのとぐろを巻くような根の脇から
木こりの妖精が飛び出す

もう帰りなさい
これから進む
来るべき場所へ

からだとこころをひらいて

まわりのために自分があるように
自分のために周りを存在させなさい

石段を降りて
ヤハラヅカサの浜へ出る
そこは百名ビーチと呼ばれる
琉球開闢の神が
初めてわたしの島に降り立った地
誰もいない浜辺
背後にあるはずの密林の木こりの声が
すぐ耳元で
ニライカナイから打ち寄せる波の音とともに
わたしの耳と
わたしの宇宙にだけ響く