時間つぶしに入った書店を回っていたら、ふと詩集を手にしたくなった。
詩集は自分の魂や心のカバーを取り去ってくれるもの。
普段気づかない、気づいてもそのままにしてしまっている心の断片をキラキラと照らしてくれるもの。
1冊目「石垣りん詩集」
大好きな詩人、伊藤比呂美さんの編纂。
「戦後の女性詩をリードした詩人」とある。
くらし
食わずには生きてゆけない。
メシを
野菜を
肉を
空気を
光を
水を
親を
きょうだいを
師を
金もこころも
食わずには生きてこれなかった。
ふくれた腹をかかえ
口をぬぐえば
台所に散らばっている
にんじんのしっぽ
鳥の骨
父のはらわた
四十の日暮れ
私の目にはじめてあふれる獣(けもの)の涙。詩集『表札など』1968年
日常生活の中に潜む、得体の知れない人間の闇。
生きて行くことのどうしようもないえげつのなさ。
生活することに倦んだとき、ページをめくりたくなる詩集になってくれそうだ。
2冊目 最果タヒ「夜空はいつでも最高密度の青色だ」
最近、ネットで知ってお気に入りの最果タヒさんの詩集。
今年、2017年に映画化されている。
三角みづ紀さんが登場したときに感じたような鮮烈な爽快感と自分が文章を書くのをためらってしまうような圧倒的な言葉の力。
都会を好きになった瞬間、自殺したようなものだよ。
塗った爪の色を、きみの体の内側に探したってみつかりやしない。
夜空はいつでも最高密度の青色だ。
きみがかわいそうだと思っているきみ自身を、誰も愛さない間、きみはきっと世界を嫌いでいい。
そしてだからこそ、この昼に、恋愛なんてものはない。青色の詩
最果タヒさんが綴る言葉は、硬質で強靱なガラス細工のように、世界の向こう側を透視させてくれる。
繊細なのは詩のデザイン。中身は冷凍された熱量が、車窓のように通り過ぎていく。
生きていることを一旦1m突き放されてから、そっと言葉の愛に包んでくれる、そんな最果タヒさんの感性が好きだ。
どんな詩だっていい。
日常生活で不意に叫び出したくなるようなシーンで詩集を手にすると、自分の本性とつながることができる。